「保育園から内定の電話があったときは、思わず涙が出た」
東京都北区の30代女性は4月、長女(1)が保育園などに入れない待機児童がようやく解消された。女性は5年前に仕事を辞めたが、長女が1歳になったのを機に仕事復帰しようと、昨年10月に認可保育園の利用申請を行っていた。待機期間は半年に及んだ。
入園の優先順位は、就労状況などに応じ付けられる「点数」によって決まる。夫婦ともにフルタイムで働く世帯ほど点数が高く、女性のように求職中は低い。
「仕事をするために子供を預けたいのに、子供を預けるには仕事をして点数を上げないといけない」
女性は、仕事復帰へのハードルが高いことを痛感した。
全国の待機児童数は昨年10月時点で約4万7千人。一方、厚生労働省によると昨年4月時点で全国の保育所の定員は280万人だった。利用者数は261万人で、待機児童を入れても定員の方が多い。
一般に、核家族の多い都市部で保育施設の整備が追いついていないとされるが、ミスマッチは都市部でも起きている。
今年4月時点の東京都北区の待機児童数(0~3歳児)は119人だったが、定員の空きは319人分あった。待機児童が最も多い1歳児(67人)でさえ56人分の空きがあった。北区の担当者は「大規模マンションの建設などが影響する面もあるが、それでも需要の予測は難しい」と話す。
待機児童を解消する上でもう一つの課題が保育士の確保だ。政府は来年度末までに32万人分の保育の受け皿を確保するとしており、それには新たに7・7万人の保育士が必要となる。
平成29年10月時点で、保育士として働く人は約43万人だった。一方、保育士登録をする人は約160万人で、仕事に就かない「潜在保育士」が多数いる。
岡山市の保育園の園長は「給与は改善しているが、若い保育士は仕事が続かない。事務で帰りが遅くなる日が多く、仕事を持ち帰ることもある」とこぼす。
保育士を含め社会で働き方が多様化する中、子育て対策にもきめ細やかな対応が求められる。その一方で、参院選(21日投開票)の与野党の公約は大規模な予算措置を伴うものが目立ち、政策論争が十分深まっているとはいえない。
首相の安倍晋三(自民党総裁)は11日の街頭演説で「保育士の待遇は月4万1千円改善し、経験を積んだ方には最大で4万円が上乗せできるようになった」と強調。さらに「立憲民主党の枝野幸男代表は『保育士の待遇を思い切って上げていく』と言うが民主党政権で給与は減っていた。できもしない公約を言うことは簡単だ」とあてこすった。
自民、公明両党は10月の消費税率の10%引き上げで得た増収分の一部を幼児教育・保育の無償化に回すことを繰り返し強調し、子育て世帯の負担軽減に取り組む姿勢をアピールする。
一方、立憲民主党は所得制限のない幼児教育・保育の無償化を進めるより、まずは待機児童の解消策を優先するよう求めている。
10日には都内で子育てをテーマにした街頭演説会を開き、副代表の蓮舫は「最新鋭ステルス戦闘機F35Aを100機買うお金があるなら、どうして待機児童の解消に回さないのか」などと批判した。
国民民主党は児童手当の支給対象を現行の「15歳まで」から3年間延長することを掲げ、共産、社民両党は保育士の処遇改善として月5万円の賃上げを主張。日本維新の会は子供の数が多いほど税負担が軽くなる制度の導入を提案する。
厚生労働省が先月発表した平成30年の人口動態統計(概数)では、女性が生涯に産む子供の推定人数を示す「合計特殊出生率」は1・42となり、前年比で3年連続のマイナスとなった。政府は令和7年(2025)までに出生率1・8を達成する目標を掲げるが、少子化傾向に歯止めはかからない。
子育ての現場が求めているのは、財政的な支援ばかりではない。子供を産み、育てやすいと思える環境作りには、ソフト面も含めた幅広い対応が求められる。=敬称略(大橋拓史)
Source : 国内 – Yahoo!ニュース